偉人に学ぶ─ダメ人間の美学
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ジミ・ヘンドリックス(1942〜1970)
┗アメリカ・シアトル生まれ。斬新なテクニックを見せた
 天才ギタリスト。ミュージシャンズミュージシャンの筆頭
 と言われ、その影響力は現在に至る。
 「PURPLE HEIZE/紫のけむり」や「FOXY LADY」等が有名。

ジミ・ヘンドリックスという名前を聞き、私のような若輩者が即座に
思い浮かべるのは“歯でギターを弾き”“後ろ手にギターを弾き”
そして挙句の果てには“ギターを燃やしちゃう”偉大な人物であります。

背中に回したギターを弾く。
楽器に触れたことのないあなたも一緒に想像してみましょう。
通常、右利きのギタリストは左の肩からギターをぶら下げ、高い位置に構えた
左手で弦を押さえ、低い位置にかまえた右手でそれをはじきます。
では、そのギターをクルリと背中に回してみると?
ギターも逆さまなら手も逆さま。今まで押さえ担当だった手で弦をはじき、
今まではじくの担当だった手が今度は押さえ担当で・・しかも高音低音が逆に
なり・・・・『きぃーー!ワケ分からん!』となります。

なぜ、巨匠は『きぃー!』とならず、涼しい顔でこの奇業をなし得たのか。
これは幼き日々に全くの独学でギターテクニックを習得したからに他なりません。
インディアンの母とブラックの父を持つ巨匠は、ブルースのレコードと親しむ
幼少時代をすごします。アルバムジャケットに写るプレイヤーの姿をなぞって
ギターを手にすると、自然に左右の手が逆になりました。鏡と同じ原理ですね。
両利きの天才ギタリストはこうして誕生したのです。

しかし才能の開花に比べ、デビューは遅れました。人種の壁があったのです。
黒人はブルースかジャズを演奏するもの。と思われていた時代のこと。
ロックを演奏する黒人は異端児として煙たがられました。
結局はアメリカを離れ、イギリスでデビューを果たすことになるのですが、
これが成功しないはずがありません。瞬く間にトップアーティストとなり、
再びアメリカに戻った頃には誰からも一目おかれる存在となっていました。

パフォーマンスも最高潮。自由自在にギターを操り、最後にはそれを壊して見せる
というサービスぶり。巨匠よりも前に出演したバンドが同じようにギターを壊せば、
『負けちゃおれん!』。更に上を行かんとばかりに勢いよく燃やしてしまう巨匠。
ぅう〜ん、まるで駄々っ子・・・。

もちろん音楽的にも新しい風を吹き込みました。斬新なギターワークはもとより、
白人ばかりのロック界の中で、黒人ならではのソウルフルなヴォーカルは人々の
耳に新鮮でした。けれども人種差別が根強く残っていたのも また事実。
時代が若すぎたのです。

栄光と人種の壁を背負い、孤独に歩んできた巨匠の遺体がホテルの一室で発見
されたのは1970年。死因は睡眠薬の多量摂取と自殺にも思えるその最期。
「助けてくれ」 
知人宅の留守番電話に残されたこの一言が最期の言葉となりました。

2002.10.16 「まぐまぐ」より発行


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■今日の余談─私の周りのダメ人間たち
└歯でギターを弾く。
 友人Uもご多分にもれず、その行為を真似てみた愚か者の一人である。
 しかし温厚が自慢のUは、激しさアピールのためにそれを試みたのではない。

 ある日のスタジオ入り。約束の時間をすぎてもメンバーが来る気配はない。
 一人ポツンと密室の中で「歯で弾くと やっぱり味がするんだろうか。」と
 試してみたくなったU。要はヒマだったのだろう。

 Uはベーシストである。ベースの弦は太い。刺し歯が折れては困ると考えた
 賢明なUは、ベースギターを寝かせ、そっと歯を当ててみることにした。
 思ったよりも簡単に音が出ることに気をよくして夢中になるU。
 
 気づけば、ガラス張りのスタジオの外には、Uの偉業を一目見ようと、
 バンドのメンバーをはじめとし、ちょっとした人だかりができていた。

 床に寝かせたベースに正座で挑むUのその姿は 英雄というには程遠く、
 お琴に突っ伏したまま白目をむいて笑う狂人のようであった。
 ・・・と、今に語り継がれている。


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