よれよれ背広によれよれズボン。
家政婦にも立ち入らせたことがない蜘蛛の巣だらけの六畳の居間でマフラー
まとい、ただ一人。この世の誰に知られることもなく、息絶えていた孤独な老人。
それがこの巨匠であります。
そして、生前のケチッぷりを象徴するかのごとく、遺体となっても離さなかった
預金通帳には2500万の残高が・・・。これ、現在では2億に相当。
ではこの巨匠は毎日毎日2億相当の財産を持ち歩き、いったい何をしていたのか
と言えば、浅草のストリップ劇場に通いつめておりました。
人嫌いゆえ、めったに口を聞かなかった巨匠も、ストリッパー達の集う
楽屋の中ではポツポツ話をしていたようです。
ある日、ストリッパーの一人が巨匠宅に招かれました。
偉い先生にお茶を入れて差し上げましょうと台所を見渡した彼女は
さて困ってしまいました。急須もなければ湯のみも一つきり・・。
『普段は何を飲まれているんですか?』との彼女の問いに
巨匠は「水だよ」と答えました。当時は水道水もきれいだったのでしょう。
いかんせん、衣・食・住には全く興味がなかったご様子。
食に関しては、あちこちの食堂に出現していたらしいので、なかなかの
食道楽であったかとも思われますが、巨匠曰く、
「病気にならないために仕方なく栄養のあるものを食っている。」
とのことなので、あてにはなりません。
お決まりの店のお決まりの席で、お決まりの時間にお決まりのものを
食すという 正しい姿も見かけられていますが、その反面
‘なんだか得体の知れないものを煮込んで庭先で食っている’
という怪しい姿を発見されたりもしています。
衣食住のみならず、性にも興味がなかったのかと思いきや・・これが
‘玄人女性’なら話は別です。晩年のストリップ劇場通いもこの一環
でしょうが、若かりし頃から親の目を盗んでは あちこちフラフラ。
20代後半ともなれば海外にまで足を伸ばし、玄人千人斬りの勢いで
青春を謳歌していたそうな。
ちなみに健康的な‘素人女性’にはもちろん興味なし。
親の勧めで一度は結婚を試みるものの、一年で離婚。
「妻の親族が家に上がり込んだりするのがうっとおし」かったそうです。
そんな巨匠は もちろん医者にも興味なし。
具合が悪くても、突然ぶっ倒れても、巨匠の辞書には 医者にかかる。
という文字はありませんでした。
胃かいようであるにもかかわらず、死の前日まで、いつもの店で
いつもの柏南蛮を食べていたそうです。
2002.12.11 「まぐまぐ」より発行
堕┃落┃人┃生┃を┃学┃ぶ┃ ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛ ── amazon.co.jp
|
摘録 断腸亭日乗〈上〉(文庫) 摘録 断腸亭日乗〈下〉(文庫) |
死後の発表を前提にして、死の直前まで42年に渡って綴られた日記の ダイジェスト版。永井荷風その人の奇人ぶりを垣間見れる必読の書。 |
堕┃落┃人┃生┃を┃更┃に┃学┃ぶ┃ ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛ ── amazon.co.jp
|
永井荷風ひとり暮らし)(文庫) 荷風極楽(文庫) |
どちらの書も荷風ファン松本哉氏による、荷風ファンのためのエピソード集。 そのケチッぷり、変態ぶり、奇人ぶりが明らかに・・・。 |