偉人に学ぶ─ダメ人間の美学
前の巨匠へ    次の巨匠へ
スタンリー・キューブリック(1928〜1999)
┗ニューヨーク州ブロンクス生まれ。映画監督。
 近未来を主題にした問題作を発表。その多くは名作として今日に残る。
 「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」等が有名。

多趣味な父がいる家庭に生まれた巨匠は、この父からチェスの打ちかたを学び、
チェロの弾き方を学びます。多くの本を読み、多くの映画を観るようになった
のも、もちろん父の影響でした。

そして13歳の誕生日。父は1台のカメラを巨匠に贈ります。
瞬く間に夢中になり、学業そっちのけでカメラに没頭する巨匠。その後の成績は
落第ギリギリの低空飛行でしたが、写真の腕はメキメキ上達していきます。
17歳の時には写真を雑誌社に買い取られるほどに成長。夜間大学に通う傍ら
見習いカメラマンとして社会人のスタートを切ります。

20歳になった頃には映画監督として身を立てることを決め、とにもかくにも
毎日映画。平日5日間はもちろん、週末には遠出をして映画館のハシゴ。と
いう毎日を繰り返しています。生粋の完璧主義なのかもしれません。

短編映画の制作を始めれば買い手もつき、有望な新人として注目も集めるますが、
仕事の依頼はなし。路上の賭けチェスで食いつなぐ日々が続きました。

そんなある日、あるハリウッド映画の代行監督の依頼が来ます。
金のために。と、雇われ監督に徹しやっつけ仕事でこなしたその作品が皮肉にも
公開とともに大絶賛。当の巨匠は絶賛を喜ぶどころか、ハリウッドを大変嫌がる
ようになり、それ以降、制作の地をロンドンに移してしまいました。

ロンドンの地が性に合っていたのか、その後 発表した作品は今に名を残すもの
ばかり。「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」・・
どの作品にも巨匠独特の映像センスと問題提起が盛り込まれています。

名声の確立と平行して、人間嫌いも進行していく巨匠。ついでに言えばロケも嫌い。
ベトナム戦争が舞台の「フルメタル・ジャケット」は、ロケを嫌がる巨匠の一声で、
全編イギリスで撮影されました。完璧主義の巨匠が何度も何度も撮り直しを行う話は
有名ですが、同映画の日本語の字幕にもケチをつけ、著名な翻訳家、戸田奈津子氏を
クビにしてしまった話はあまり知られていないかもしれません。

人嫌いのため撮影以外は一歩も外に出ないという徹底した晩年を過ごした巨匠は
1999年、「アイズ・ワット・シャット」の完成目前にこの世を去りました。
死因も不明なら遺言も不明。死の真相は今だ謎に包まれたままです。

2003.02.26 「まぐまぐ」より発行


名┃作┃な┃の┃に┃賛┃否┃両┃論┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
── amazon.co.jp
時計じかけのオレンジ(DVD)
ロリータ(DVD)
コジャレた飲み屋で必ずと言っていいほどお目にかかるポスター2点。
映画はまだ観てないんだよね〜って人はこの機会にいかが。



■今日の余談─私の周りのダメ人間たち
└街頭チェスで日銭を稼ぐキューブリックよろしく、街頭で金を稼ぎ、
 生活をしていたTさん。彼は自作のアクセサリーを路上で売っていた。

 Tさんは私が十代の多感な時期に世話になった人であり、その影響も
 大きかった。だが私は、Tさんの素性はおろかその本名すら知らない。
 知っているのはレゲエをこよなく愛していたことくらいだ。

 Tさん自慢のヘアスタイルは、髪を束にしたスタイルのドレッドヘア。
 もちろん今時の若者のように美容院で数万円もかけて作り出すような
 “なんちゃってドレッド”ではない。

 古来ドレッドの作成法はもっとシンプルなのだ。
 まず長い髪を洗った後にとかさずにおく。これを何日も続けると、当然
 絡まる。絡まれば絡まるほど良い。より自然な仕上がりを目指す場合は、
 洗わずに絡めるのも良い。
 そして、ほどよく絡んで束になった髪をハサミや指で少しずつ裂いていき、
 徐々に形を整えていくと、ボブマーレーのように見事な太い束のドレッド
 ヘアが完成する。だが本来ならば抜け落ちるべき毛髪が全て停滞したままに
 なるため、髪といえどもかなりの重量になる。腰まであるドレッドの持ち主
 だったTさんは毎日が重さとの戦いだと言っていた。

 そんなTさんは毎年ある時期からジワジワと北へ向かう。
 路上で稼ぎながら、売上の分だけ進み、売れなければ停滞という、
 まさに双六のような旅行のゴールは北海道。

 北海道には自然の麻が大量に発生している場所がある(あった?)そうだ。
 麻イコール大麻である。見事ゴールに到着したあかつきには、思う存分
 自然の麻を摘み取る。そしてまだ青々とした葉っぱをゆうゆうと腰にぶらさげ
 ると、またジワジワと双六の旅をしながら都会に戻る。というのがTさんの
 恒例行事だったのだが、ある時からプッツリ姿を消してしまった。
 途中で捕まったのか、都会に戻るのが嫌になったのか、真相は不明のままである。

前の巨匠へ    次の巨匠へ

偉人に学ぶ─ダメ人間の美学
いくーこ.com
Copyright(C)2002〜
iku~ko,
All rights reserved.