偉人に学ぶ─ダメ人間の美学
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マリア・カラス(1928〜1999)
┗アメリカ、ニューヨーク生まれ。
 本名、マリア・アンナ・チェチリア・ソフィア・カロゲロプロス。
 歌に生き、恋に生きたと言われる、伝説のソプラノオペラ歌手。
 その美声のみならず、美しい容貌からも歌姫としてあがめられる。
 「ノルマ」「椿姫」「蝶々婦人」等、出演作品多数。

巨匠8歳。ラジオから流れ出てきたカルメンを聴いて人生を決意したと
言います。鼻歌の代わりにカルメンのアリアを歌って過ごしました。
両親の離婚をきっかけにギリシャへ転居。そこで優れた師に出会えたため、
第二次世界大戦の最中であったにも関わらず、本格的に声楽を学ぶことが
できました。15歳の時にはプロデビュー。アメリカに戻ってからも
順調にキャリアを積んで行きます。

初舞台は24歳。舞台の成功と同時に、恋も手に入れました。
お相手は、舞台のスポンサーでもあった30歳も年上の実業家。
巨匠の方は「会って5分で運命の人だと感じた」とのことですが、
それに対して実業家の方から見た巨匠の第一印象は「太った不細工な女」
とのこと。それもそのはず。当時の巨匠の体重、なんと105kg。
女神と呼ぶにはちょっと・・・。大きすぎ・・・。

しかし不細工だなんだと言っても、巨匠自身とその才能に惚れたのでしょう。
出会いから2年後にはめでたく結婚。もちろんオペラにも理解の深かった夫は、
巨漢の女神の影になり日向になり支え続けました。その才能をつぶさぬよう、
子供も作らなかったといいます。しかしいくら才能があったとて、そんなに
太ってちゃぁ椿姫の役はもらえません。それまでも食事療法などは試みてきた
巨匠でしたが、そんなもんじゃ埒があかん!とばかりの荒療治を決行。

わざわざサナダムシの幼虫を飲み込み、腸の中に寄生させたのです。
あとはいくら飲もうが食べようが、余分な栄養はサナダムシが吸ってくれる
ため、飼い主である巨匠は太らずに済むというわけ。
この方法は見事成功し、たった2ヶ月間で105kgの巨漢は55kgの
細身へと変貌を遂げました。60kg減!?ちなみに身長は172cmです。
サナダムシの方もぐんぐん成長し、役目を終えた頃には8mあったとか
12mあったとか・・・。

美貌を手に入れ、才能を欲しいがままにし、名実ともにスターの座についた
巨匠の唯一の弱点は“恋”でした。世界的な大富豪、オナシスとの出会い。
お互いに不倫の関係でありながら、瞬く間に心を奪われてしまう巨匠。
七年の不倫関係を経て夫と離婚。そして新たな幸せを築きあげていくかと
思われたその時、オナシスが再婚したのは別の女性、JFK暗殺により
未亡人となったケネディ夫人でした。寝耳に水の裏切りに放心状態の巨匠。
結婚の事実を知ったのもTVの報道からだったと言います。

そんな裏切りからたった一ヶ月後。「結婚は失敗だった」と泣きついてきた
オナシスを受け入れてしまったのは女の弱さだったか、負けまいとする
女の意地だったか・・・。泣きついては来たもののケネディ夫人と離婚は
しなかった(契約結婚だったため出来なかった)オナシス。
オペラは退屈だと言って全く興味を示さなかったオナシス。
己の子を身ごもった巨匠に堕胎を命じたオナシス・・・。

愛するがゆえに深い傷を負っていった巨匠は、睡眠薬が手放せなくなり、
徐々に美声も損なっていきます。今でこそ考えられませんが、当時は
かなりの酷評を受けたこともあったようです。

死を目前に迎えたオナシス。「あなただけを愛していました」と最期の言葉を
巨匠に伝えました。それから2年。歌に、愛に、真っ直ぐに生きた巨匠は
パリの自宅で心臓発作を起こし、この世を去ります。53歳。孤独な死でした。

2003.03.05 「まぐまぐ」より発行

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恋の歌ばかりを集めた、とっておきの一枚です。
ザ・ベスト・オブ・マリア・カラス(CD)
1953〜64年の収録から。“蝶々婦人”や“カルメン”など有名どころ満載。



■今日の余談─私の周りのダメ人間たち
└ある日のこと。
 駅のベンチでたたずむ私の顔を、ジーーッとのぞき込む男がいた。

 「な・・なんだろう。この人・・。」
 普段から“一人でしゃべってる系”の人に好かれてしまう私は警戒の色を
 強めた。そんな私の警戒を知ってか知らずか、人の顔見て爆笑し始める男。

 「だ・・誰?こわい・・・」
 しかし、よくよく耳を傾けてみると男は私の名前を呼んでいるようだ。
 聞き覚えがあるような、ないような・・。
 「その声は・・Y先輩じゃないですか!」彼は高校の時の先輩であった。
 学生時代の彼は唐突にモヒカンで現われたり、校舎の階段をでんぐり返しで
 降りたりしていたので、奇人としても有名だったが、見た目が男前であった
 ため、女子の人気も高かった。

 奇人ぶりはともかく、一回りも二回りも大きくなっているY先輩に、
 当時の面影は全くない。でかい。でかすぎる・・。デ・・ブ…

 そうこうしているうちに電車が来たので連れ立って乗り込む。
 大きく変貌したY先輩は、発声法も変貌していた。声もでかい。とにかくでかい。
 突き刺さる人々の視線が気になって、近況報告も何がなんだか分からない。

 電車も終点に近づくころ、「お、そうだ。コレやるよ。」と思い出したように
 Y先輩が取り出したのはフィンガーファイブのレコードだった。

 嵐のように現われて、嵐のように去っていったY先輩。
 誰もいなくなったホームでレコード片手に呆然とたたずむ私・・・。
 「なぜフィンガーファイブ・・なぜ・・・」

そ┃の┃姿┃に┃酔┃う┃  
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1958年パリ・オペラ座での公演を収録。美しいディーバの姿が今ここに…

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