旅役者の両親の次男坊として生まれた巨匠。
母親は数々の舞台で主役を演じる、売れっ子女優でした。では父親の方は
どうだったかと言えば・・・大根役者と呼ばれるだけならまだしも、その
実態は酒癖の悪い癇癪持ち。アルコール中毒に身を崩し、俳優業も廃業。
巨匠が1歳の時には、妊娠中の妻と幼い子供たちを捨てて失踪しています。
貧困の中、翌年には母親が結核を患って死亡。孤児になってしまった兄弟は
それぞれ別々の家に引き取られていきました。巨匠の行く先は裕福な煙草業者
アラン家。ここからエドガー・アラン・ポーを名乗るようになりますが、
生涯に渡り、正式に籍を入れてはもらうことはありませんでした。
とは言っても、子供のいなかった養父母は巨匠に愛情を注ぎ、十分な教育も
与えています。
そんな巨匠に実父の血が表れてくるのは、17歳のころから。
大学に進学させてはもらったものの、少ない仕送りをなんとか増やそうと、
賭博に手を出したのが運のつき。
わずか8ヶ月の間に2000ドルの借金をこしらえてしまいます。
当然のごとく大学は中退。その後入学した士官学校も成績は良かったものの、
厳しい規則に嫌気がさし、規則違反をわざと繰り返したため放校処分に。
さらにこの頃からいくつかの作品を発表し出しますが、さっぱり鳴かず飛ばず。
しかし編集者としての職は得ます。この就職に時期を同じくして結婚したのは
27歳の時。妻となったのは実の従妹で、結婚当時は わずか13歳でした。
この年の差からか、巨匠の性的不能説などもあるようですが真相は藪の中。
いずれにせよ夫婦仲が良かったことは確かなようです。
この幼い妻は、アル中で短気。という問題ありありの巨匠を、影に日向に
暖かく支えました。
当の巨匠も、小説はイマイチでしたが、編集者としては敏腕ぶりを発揮。
発行部数を5000部から37000部に伸ばすほどの敏腕振りを見せる一方、
やっぱり癇癪&アル中が災いして一所に落ち着く事はありませんでした。
そんな折の38歳、以前から結核を患っていた妻が病死します。24歳。
早すぎた死。この事実に耐えられなかった巨匠は、その後の数年、ほぼ絶え間なく
酒を浴び続けることになります。そして幾人もの女性に求愛、求婚。
まるで愛する妻など初めから存在しなかったかのように・・・。
泥酔したまま行き倒れている巨匠が発見されたのは、妻の死から2年、
初恋の女性と再会し、婚約までとりつけた矢先のことでした。
病院にかつぎこまれたものの、既に瀕死の重体。そのまま妻のもとへ。
巨匠の名が世に出たのはずっと後のこと。生前は無名のままでした。
愛すべき欠点だらけの夫に、妻はこんな言葉を残していたそうです。
「私が死んだなら、あなたを守る天使になってあげる。
あなたが悪いことをしそうになったら、その時は両手で頭を抱えるの。
私が守ってあげるから・・・。」
2003.03.12 「まぐまぐ」より発行
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