ある日、いたずらばかりする幼き巨匠に手を焼いた父親は、一晩ほど
留置場で息子を預かってもらえるよう、知り合いの警察署長に頼みました。
実際には一晩どころか5分程度のわずかな時間だったようですが、この留置場の
体験は、もともと臆病だった巨匠を震え上がらせるのには充分すぎるほど充分な
効力を発揮し、後にサスペンスの源となったようです。
同時に生涯に渡っての警察嫌いにもなってしまったようですが・・。
警察は嫌いになれど、いたずらは嫌いになりませんでした。
映画会社の字幕デザインを担当後、トントン拍子でサスペンスの神としての
地位を確立した巨匠。少年には少年のいたずらが、神には神のいたずらが
あるってもんです。
売れっ子女優を冒頭で殺してしまうという贅沢な台本で、売れっこ=出番が長い。
という観客の常識を気持ちよく裏切ったのも、いたずら心でしょう。
また、鳥や卵をとことん憎んでいた巨匠はスクリーン上でその恨みをはらします。
無数の鳥を悪役に仕立て上げ、恐怖を与えた「鳥」はあまりにも有名ですが、
“卵”のほうは、ちまちまジワジワ。目玉焼きに吸殻を突き立てるシーンを
作ったり、俳優たちがハムエッグを嫌がるシーンを作ったりしています。
巨匠自身がエキストラとして各作品に必ずチラリと出演するのも、
とっておきのいたずらでしょう。けれども観客が巨匠探しに夢中になって
しまわないよう、必ず早い段階で登場するように配慮していたようです。
これらスクリーン上のエピソードは、微笑ましいものばかり。
けれども私生活では洒落にならないような いたずらもありました。
ある日のこと、巨匠は小道具係りに一つの提案を持ちかけます。
それは1週間分のギャラと引き換えに、撮影所で撮影用カメラに手錠で
つながれたまま、一晩過ごしてみないか。というもの。
一晩で一週間分のギャラなら乗らない手はありません。
喜び勇む小道具係りに手錠をかけると、巨匠は親切にもブランデーを
勧めました。「ぐっすり眠れた方がいいだろうから。」
その晩、小道具係はぐっすり眠れたでしょうか。眠れるはずがありません。
巨匠が勧めたブランデーには強力な下剤が混入してあったのです。
あくる日の朝どうなっていたかといえば・・・ご想像の通りです。
その他、全く関係のない女性にわざとプレゼントやラブレターを贈って、
彼女の人生を台無しにさせてみたりと、サディスティック丸出しのいたずらを
しては喜んでいた巨匠も、家族に対しては非常に優しかったそうです。
公私共に、いたずら人生をまっとうした巨匠80歳。
ロサンゼルスの自宅で腎不全のため、この世を去りました。
2003.03.26 「まぐまぐ」より発行
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