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フランソワ・トリュフォー(1932〜1984)
┗フランス、パリ生まれ。映画監督。映画評論家。
 従来の映画作法を打破し、大胆な技法を使った前衛芸術運動、
 ヌーベルヴァーグの第一人者。
 「大人は判ってくれない」「突然炎のごとく」「終電車」などが有名。

設計技師の父と雑誌社秘書の母を持ち、この世に生まれでた巨匠。
しかし、この夫婦は赤ん坊が生まれるとすぐに離婚してしまいます。
巨匠にものごころがついた頃、そばにいたのは母ではなく叔母でした。

両親の愛を受けずに育った、というのはかなりコンプレックスとして
残ったようで、これでもかとばかりにグレまくり。
学校をサボるのはいいのですが「どうして休んだのか」と問う担任に、
「母親が死んだから」という大胆な嘘で対応したりしています。

またある時は、学校をサボって映画鑑賞。何食わぬ顔で家に帰ると
何故かその日に限って、叔母が映画に連れて行ってくれると言います。
しかも演目は今観てきたばかりの作品。さすがに「さっき観た」とは
言い出せず、おとなしく映画館へと連れられました。
期せずして、同じ日に同じ映画を二度観るという経験をした巨匠。
この時に映画への探究心が湧き出たというから、人生なにがキッカケに
なるもんだか分かりません。

映画館に通いつめるうち、巨匠は一人の女性に恋をします。
寝ても覚めても頭の中によぎるのは彼女のことばかり。
とうとう彼女の家の近所に引っ越してしまいました。そんなストーカー
ばりの熱い想いも報われず、相手にもしてもらえなかった巨匠。
悩んだあげく、とうとう自殺未遂までやらかしちゃいました。

これではいかん。失恋の悲しみを断ち切るため自ら兵隊志願。
・・と、ここまでは良かったのですが、やっぱりキツくて脱走。
あえなくつかまり、軍刑務所から精神病院にまで送られてしまいます。

すったもんだの後は、辛口の映画評論家として活躍。
その後、幼き日々のワンパクぶりを「大人は判ってくれない」という
自伝的映画作品に仕上げます。その斬新な映像美によって、当時の映画界は
ひっくり返りました。「ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)」の幕開けです
自伝的映画は一作にとどまらず、計5作品を発表しました。
一人の役者の成長にあわせ、映画の主人公も成長していくという手法も
全く新しいもの。まさに新しい波を巻き起こしたのです。

己のワンパクぶり、ダメっぷりを全て映画のネタにしてきた巨匠も
脳腫瘍には勝てず、52歳の若さでこの世を去りました。
手術の前日には「これで最期かもしれないから」と、あらゆる女性たちに
電話をかけまくったそうです。

「失恋したら、その話を映画にして撮れば、痛手なんて吹っ飛ぶさ!」

2003.04.02 「まぐまぐ」より発行

映┃画┃的┃人┃生┃ 
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トリュフォー、ある映画的人生(単行本)

トリュフォーをこよなく愛し、また交流もあった著者が、
あたかも一本の映画のようにその生涯を描く。



■今日の余談─私の周りのダメ人間たち
└週に一、ニ度は映画館に通っていた中学生時代の私。
 とはいえ、たかだか中坊が頻繁に映画館に出入りすると言うのは
 大変な事だ。なんてったって、金がない。
 私の両親は「子供に余計な金を持たせるべからず」という方針を
 貫いていたため、なけなしの小遣いはすぐ底をついてしまう。

 困った私は、足りない金を両親の財布から拝借する。という、
 何のひねりもない方法でこの問題を回避した。百円、二百円という
 単位でコツコツと詐取を重ね、目的額を達成しては映画館へ向かった。

 当時、このネコババ方法は割とポピュラーであり、私の周りでは
 「オカチョン」という名前まで付けられていた。使用法は、
 A「今日○○に遊びに行こうぜ。」
 B『あ〜、金ないからダメだ〜。昨日オカチョン失敗しちゃってさ。』
 という具合である。

 あまり意味も考えずにオカチョンオカチョンと言っていたが、
 この言葉にはれっきとした語源まであった。“お母さん”の財布から
 “チョンボ”するので「オカチョン」。全く上手いネーミングである。

 ある日のこと、オカチョンの達人であるMが悲痛な表情で現れた。
 聞けば、日頃のオカチョンが一気にバレてしまい、それはもう大変な事に
 なったということだった。

 皆、神妙な面持ちでMの話に耳を傾けた。
 盗みは悪い。だが小遣いが少なすぎるのはもっと悪い!と奮起する者、
 怒り狂ったMの両親の様相を聞き、Mに同情の意を示す者・・・。
 だが、話が進んで行くにつれ、皆の同情はMの両親に集中していった。

 それとは知らずにMが空っぽにした小銭入りの缶。
 この中に入っていたのは、昭和○○年ものといったレアものコインや
 記念コイン、Mの両親が楽しみにコツコツと集めてきたものばかり
 だったのである。


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