美男子とは言い難いその顔立ちに、太ももだけが発達したアンバランスな
プロポーション。その太すぎる太ももを見てバレエ学校の教師は断言しました。
「この少年は偉大なダンサーになる!」
この一言のおかげで、最高のバレエ教育を得ることのできた巨匠。
もちろん、期待を裏切ることなく、突出した才能をグングン伸ばしていきます。
劇場バレエ団に入ってからも、本来誰もが通る道であるコール・ド・バレエ
(群舞、バレエにおけるバックダンサーのようなもの。)を、飛び越えて
一気にソリスト(ソロを踊る人)に昇格しました。
・・・と、ここまでは正統派バレエの昇進劇でしたが、18歳の時に
ディアギレフという男性と愛人関係になってから、その後の人生が大きく
変化しました。ディアギレフは巨匠の所属するバレエ団に圧力をかけ、巨匠を
解雇させるよう仕向けると、自らの結成した前衛的バレエ団「バレエ・リュス」
に呼び入れ、そして西へと亡命したのです。
超人的な跳躍力を見せつけ、世界のトップスターに輝いた巨匠。
「薔薇の精」のラスト、窓枠を飛び越えるシーンでは、そのまま空に
飛び立っていったのかと錯覚を覚えさせるほどだったそうです。
『貴方はどうして空中で静止できるのですか?』と、たずねた新聞記者に
「そうですね・・。思い切り飛び上がったら、そこでしばらくジッとして
いるのですよ。」と答える巨匠。ぅ〜ん、そのまんま・・・。
その後、自ら振付を行った作品を発表しますが、性的表現の多いその作品に
時代と観客はついて来れませんでした。そればかりか、愛人ディアギレフまで
愛想を尽かし始めたのです。愛人の心を自分に向けたい一心で、巨匠はある
女性と電撃結婚を果たします。結果としてこの結婚がディアギレフの逆鱗に触れ
「バレエ・リュス」退団に追い込まれます。
どれほどショックだったのでしょう。退団後、精神分裂症を引き起こした
巨匠はその後30年、61歳で最期を迎えるその時まで精神病院での生活を
余儀なくされました。しかしこの発狂により、生きながら伝説と化したのも
また事実。
亡命後の活躍はわずか6年。そして今現在、巨匠の素晴らしい跳躍や
モダンバレエの原型となった振付をこの目で見ることはできません。
巨匠の踊りは一つも残されていないのです。映像もありません。
あるのは写真と伝説のみ。
発狂前後の手記には“神”という言葉が随所に現れます。たったの6年で
バレエの歴史を塗り替えた天才ダンサーは自他ともに認める神でもありました。
「私は神である。私はキリストであり、仏陀である。私は全人類を愛する。
それが私の狂気である」
2003.04.16 「まぐまぐ」より発行
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