ピアノを習う姉の横で、自然に楽譜が読めるようになったのは５歳の時。
１１歳から本格的に弾き始め、しばらくするとアマチュアコンテストを
総ナメにしてしまうほどの上達振りをみせました。時には‘上手すぎるから’
という理由で出場拒否を受けることもあったほど。
１０代のうちに教会のオルガン奏者を経験し、２０歳になるころには
もうジャズクラブの専属ピアニストとして雇われています。

時代はジャズ革命期。自由奔放な演奏スタイル“ビバップ”発祥の場所で
活躍していた巨匠でしたが、あまりにも独創的なその演奏はビバップの
流れともまた一線を画すものでした。
流暢なフレーズを弾いていたかと思えば、次の瞬間には狂ったように、
時には肘まで使って鍵盤を叩きまくる・・。難解かつ予測不明なその演奏に
一目置くミュージシャンも沢山いましたが、協調性も必要であるセッション
には不向きであったのかもしれません。
「俺がソロをやってる時に後ろで変なピアノを弾かないでくれ」
とお願いされてしまったこともありました。

変なのは音だけにあらず。演奏中の挙動不審っぷりも逸脱しています。
ステージ上で回ったり踊ったりなんて当たり前。時にはピアノの上に
ドーンと寝転がったまま眠ってしまったり、ソロとソロの合間に一杯
ひっかけるべく、どこぞへ消えてしまったり・・・。

これら奇怪な行動は、全て‘自前’
芸術家にありがちな麻薬による行動ではありません。

確かに一度、麻薬所持で捕まっています・・・が、これは無実。
車に同乗していた友人の麻薬所持が見つかった時、友人をかばって
黙秘を通したために捕まってしまったわけなのですが、その代償は
大きく、６０日間の刑務所体験に加え、ニューヨークのクラブで
演奏するための認定証を６年間も取り上げられてしまいます。

この頃から次第に精神の安定を欠き、人嫌いと引きこもりの傾向を強めて
いった巨匠。５１歳以降はレコーディングを行う事もなく、自宅にこもり
きりで過ごしました。話し相手は妻ただ一人。
６２歳まで淡々とした日々を過ごし、そしてひっそりとこの世を去りました。

2003.05.21　「まぐまぐ」より発行