3人兄弟の末っ子、フランス系アメリカ人として生まれた巨匠。
9歳の時に一番上の兄が亡くなったこともあってか、母思いで真面目な少年に
育ちました。家業は大手の印刷業。裕福な時代もありましたが、不況に見舞われ
徐々に衰退。父がギャンブルに手を出すようになってからは、貧乏一直線。
巨匠の高校進学も危ぶまれましたが、その辺はぬかりなく、フットボールで
奨学金を得ます。学業の傍ら保険員としても働き、一家を助けつつも
フットボールでも活躍というスーパーマンぶり。大学も奨学金で入学でき
ましたが、コーチと折り合いが合わなかったため、なかなか試合に出して
もらえません。このことを苦にした巨匠は卒業を待たずして海軍へ入隊。
除隊後、友人のつながりから、ある一人の青年と出会います。
少年感化員出身。自由奔放な行動と人柄を持つ彼との出会いは、真面目で
几帳面な巨匠にとっての青天の霹靂となりました。彼の生き様に感銘を受け
連れ立って放浪の旅に出た巨匠は、その経験を思うがままに水々しい文体で
書き連ね「路上」という作品を完成させました。
とにかく今頭に浮かんだそれを次々に文字に変えていく。という手法に
こだわりを見せた巨匠。その手法が実現できたのも超人的なタイピングの
腕前があってこそ。早くて確実。この辺は几帳面さの勝利ですね。
タイプライターの紙を入れ替えているすきに、頭の中に浮かぶ文字が消えて
しまうのを恐れた巨匠は、入れ替え不要のテレタイプ用紙を使用しました。
その結果、出来上がったのは長〜〜〜い巻物の状態の原稿。行間も詰めて
書いたため、読みづらいことこの上なし。どの出版社に持ち込みをしても、
まず巻いてあるという時点で嫌がられてしまい、なかなか目を通してもらう
までに至りません。結局、その原稿は巨匠のリュックサックの中で7年もの間
揺られ続けることとなりました。
しかし、いったん日の目を見れば早いもの。「路上」は出版とともに
伝説となり、その作者である巨匠は、抑圧からの開放と肉体的なリズムを
追求する新しい文化、ビートゼネレーションの第一人者として、最も才能ある
ビートニクとして、圧倒的な支持を受けます。
栄光の道を歩き出した巨匠。しかし輝かしい栄光が必ずしも輝かしい
精神性をもたらすとは限りません。栄光によって堕落していく自分を
感じた巨匠は酒に走り、「路上」の生き方の再現を試みることで
かつての精神を取り戻そうとしましたが、所詮、過去は過去。
そんなことで若き日の感性が蘇ろうはずもありません。深酒が進み、
堕落の一途を辿る姿にあきれたかつての友人達は、巨匠の前から次々と
姿を消していきました。
挫折と孤独の中、愛する母と三人目の妻とともに生活の地を移し、
家にこもって野球ゲームに没頭するという晩年を過ごした巨匠は、
酒でボロボロになった体を持て余したのか、47歳でその生涯を終えました。
2003.06.11 「まぐまぐ」より発行
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