偉人に学ぶ─ダメ人間の美学
前の巨匠へ    次の巨匠へ
ジャン・コクトー(1889〜1963)
┗フランス、パリ郊外生まれ。詩人・劇作家・小説家・映画作家。
 多才、多芸ぶりを発揮し、千の顔を持つ男と言われた。
 小説「怖るべき子供たち」「阿片」
 演劇「オルフェ」 映画「美女と野獣」などが有名。

この巨匠は・・どうなんでしょか。
ある人は華奢な線を用いたデッサンから、水墨画を思わせる素晴らしい画家で
あると言い、またある人は、幻想的な深みある文章から天才的文豪であると言い
そしてまたある人は、えっ?この人が美女と野獣の監督をっ?と驚きます。
千の顔を持つ男と言われる由縁はこの辺りにあるわけですが、本人は一貫して、
我輩は詩人である。と公言してきました。

そんな巨匠の生まれはパリ郊外の別荘地。
おじいちゃんが家に音楽隊を呼んでしまうという とてつもないブルジョア
家庭に生まれました。ボンボンの詩人など、胡散臭くていけませんね。
暗い影をなんぼ背負っての詩人ですよ。この巨匠も例外ではありません。
不幸が舞い降りるのは8歳の時。弁護士であった父親がピストル自殺をして
しまいます。あまりにも突然の死。理由は全くわかりません。

親の自殺は必要以上に子を苦しめるもの。自分が父親の同性愛シーンを
目撃したから自殺したのではないか。と後年になって悩んだこともあった
ようです。しかし、父親が同性愛者であったかどうかは実のところ分かって
いません。幼き日の巨匠が本当にそんなシーンを目撃したのか、
それとも薬物による妄想なのか・・・それも今となっては永遠の謎。

同性愛者は息子、すなわち巨匠の方です。こちらは誰の目にも明らか。
ひどい阿片中毒に悩まされたのも、年下の恋人が若くして急死をした直後から
でした。もちろん男の恋人です。
しかし、何事にもただでは転ばないのが芸術家。阿片中毒の苦しみは「阿片」と
いう小説に。恋人との苦しみは「白書」という自伝的小説に。こちらは匿名での
出版でしたが、まぁ・・・バレバレです。

ブルジョアらしく社交的であり、そして人々から愛された巨匠が亡くなったのは
1963年、74歳の時。死因は心臓発作でした。
20年来の友人でもあったシャンソンの女王、エディット・ピアフの訃報。
これが引き金になったようです。


2002.11.13 「まぐまぐ」より発行


恐┃る┃べ┃き┃コ┃ク┃ト┃ー┃の┃世┃界┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
── amazon.co.jp
恐るべき子供たち(文庫)
死をかけて遊ぶ姉と弟・・・。美しくも残酷な子供社会を描いた問題作。



■今日の余談─私の周りのダメ人間たち
└ジャン・コクトーにすこぶる興味を示す友人M。
 古本屋を巡っては、コレコレこんなのがあったと自慢をし、
 コクトー展に行っては、客が男ばっかりだった。日本のホモ人口も
 なかなかのもんだ。と、勝手に決め付け、そして、コクトー流と言っては
 似ても似つかぬ一筆描きを披露する。

 そんなMだが、こと映画となると別人のように尻込みしてしまう。
 Mにとって映画とは正月に見る寅さんであり、夜中に見る日本語吹き替えの
 B級探偵映画である。

 しかし、コクトーのドキュメンタリーを入手した私は真っ先にMに勧めた。
 Mを家に招き、半ば強制的にTVの前に座らせ、そしてビデオを投入。
  
 私に悪いと思ったのか、最初の何分かは黙って観ていたMだったが
 その後モジモジ動き始めたかと思うとどこかに行ってしまった。
 親戚の家で無理やり正座をさせられた子供と同じである。
 
 そして、一時間も過ぎただろうか。感動の場面にひょっこり戻ってきたM。
 「え?誰これ?これコクトーなの?それとも俳優?そっくりさん?」
 と、今さらうるさいM。そして私の『集中しているので返事をするのは
 面倒くさいです』アピールも甲斐なく、質問を連打するM。
 「なに?どういう意味?ねぇねぇ、シカト?ねぇねぇねぇ・・」

 私はこの時以来、映画は一人で楽しむもの。と心に誓った。
 


前の巨匠へ  次の巨匠へ

偉人に学ぶ─ダメ人間の美学
いくーこ.com
Copyright(C)2002〜
iku~ko,
All rights reserved.