だいたいにおいて、父親からしてダメ人間です。
1915年のある日、アクロバットの大道芸人を生業としていたこの父は、
妻が産気づいたのを知るやいなや 救急車を呼びに走ります。
子供が生まれる!一刻も早く!との思いから走り出したには違いありません。
しかし、どこでどう間違ったのか、たどり着いた先は居酒屋。
母は結局、警官のマントの上に赤ん坊を産み落とすはめになりました。
父が父なら母も母。生後2ヵ月の巨匠と飲んだくれの夫をほっぽり出し、
逃走・・というか暴走。ちなみに麻薬常習者であったこの母は30年後に
モルヒネの量を間違えてショック死しています。当時、同棲していた男性は
その突然の死にビックリ仰天し、遺体を川に投げ捨てちゃったそうです。
閑話休題。
結局、祖母に育てられることになった巨匠ですが、このおばあちゃんが
また曲者。アルコールは回虫を殺すから体にいいんだよ。と言いながら、
哺乳瓶にぶどう酒を入れて育てたというから大したもんです。
その後、前出の父に引き取られた巨匠は7歳より放浪の旅へ。
9歳になったある日の冬。幼い巨匠は途方にくれます。父が病気で倒れ、
食料も金もなければ、家もない。窮地に立たされた巨匠は街頭で唄って
みることにしました。幼き歌姫の誕生。
その収入は父のそれをあっさり超えたと言います。
父の元を離れ 本格的な放浪生活を始めたのは15歳。通りや安酒場で
唄ってはネズミと一緒に地下道で眠るという宿無し生活を約二年間続けた後、
17歳で同棲と出産を経験。この時の子供は2歳で死亡してしまいました。
この頃から生涯に渡って、恋多き歌姫の本領を発揮し出します。
生涯に渡っての男関係には目を見張るものが・・・。だいたい、17歳の
時点ですでに愛人までいた様子。30歳の時には7歳年下の“イヴ・モンタン”
に惚れ上げデビューの世話をしてあげたり。なんてこともありました。
他にも様々、多種多様な男関係。数えていたらキリがありません。
そんな巨匠にも本物の愛が訪れます。プロボクサー“マルセル”との出会い。
今までになく真剣で激しい愛の日々が二年も過ぎた頃、試合で遠征していた
恋人に向かって「早く帰ってきてね」と巨匠は愛らしくおねだりしました。
この一言がその後の運命を大きく分けてしまいます。少しでも早く帰ろうと
した恋人“マルセル”は飛行機を一便繰り上げて帰国。・・・しようと
しましたが、墜落事故により帰らぬ人となりました。
このとき以来、麻薬が手放せなくなってしまう巨匠。あやしげな降霊術にも
手を出しました。そして亡き恋人へ向け、「あなたが愛してくれれば世の中の
ことはどうでもいい」と唄った「愛の賛歌」は大ヒット。
嗚呼!美しきかな故人への愛・・と思いきや、ほとぼりが冷めればまた男を
とっかえひっかえ・・・。なかには30歳も年下の恋人なんてのも・・・。
結局は神も、貞淑な妻より“恋多き歌姫”であることを望んだのでしょう。
2002.11.20 「まぐまぐ」より発行
愛┃に┃生┃き┃た┃歌┃声┃ ━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛ ── amazon.co.jp
|
エディット・ピアフ(CD) シャンソンって何?というアナタにもおすすめの一枚。 |