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ジャン・ジュネ(1910〜1986)
┗フランス、パリ生まれ。
 小説家・劇作家・詩人。幼い頃から放浪と投獄の生活を送った。
 「泥棒日記」「葬儀」などが有名。

娼婦であった母が子育てを放棄したため、わずか生後7ヶ月で生活保護局に
預けられることとなった巨匠。母親の名前と自らの出身地を知ったのは
21歳になってから。父親の身元は現在も不明のままです。
その後、職人の家に預けられてからは教育も受け、学年トップと
優秀な成績も残すものの、13歳の時には養父母のもとを離れ職業訓練校に入学。
・・・わずか10日で脱走。

このころから泥棒をちょいちょい働くようになり、15歳で少年院に
入れられてしまいます。もちろん脱走。そして勧奨金を目当てに軍隊に入隊。
厳しい軍隊暮らしが続くはずもなく、またもや脱走。

男娼や窃盗で身を立てながら、偽造パスポートを用いてヨーロッパ中を
放浪して回りました。逮捕されては逃げ、逃げては放浪の7年。
とうとう監獄入りが決まった時には12の容疑をかけられていました。
獄中生活の中で、文字を綴る事を覚えた巨匠は獄中にて3冊の自費出版を
実現させます。

この時点では終身禁固刑がほぼ確定していたものの、
ジャン・コクトーやサルトル、ピカソらの熱烈な働きかけにより、
異例の判決が下ります。なんと大統領の特赦を受けて釈放されたのです。
突然舞い降りた自由な身の上。両手放しで喜ぶのかと思いきや・・・
死刑を覚悟し、自殺未遂を繰り返してきた巨匠にとっては複雑な心境で
あったようです。巨匠にとっての悪事とは、息をすることであり、
魂を解放するための行為。巨匠にとっての監獄とは、悪と同化できる
唯一の場であったのかもしれません。
良かれと思って行った運動が、出すぎた行いであった事を知り、
ジャン・コクトーやサルトルはひどく落胆しました。

釈放から6年経ったある日、沈黙の日々を続けていた巨匠は、
ひどい抑鬱から睡眠薬を大量に飲み、意識不明で発見されました。
この自殺未遂を起こしたことによって逆にで生きるためのフンギリがついたのか、
日本を含む極東を旅したあと、戯曲の執筆や政治的運動などを精力的に開始します。
そして、これらの活動は死の直前まで続けられました。

喉頭癌の悪化により、パリのホテルで最期を迎えたのは76歳。
その亡骸は、かねてからの希望どうり、モロッコの墓地に眠ることとなりました。
そこは海に面する断崖にあり、監獄と売春宿に挟まれた小さな墓地だと
いうことです。

「わたしは英雄的な冒険を捜し求めていたのではなく、
 最も美しい、また最も不幸な犯罪者たちとの同一化を
 追い求めていたのだ」

2003.07.29 「まぐまぐ」より発行

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泥棒日記(文庫)
波乱万丈の人生は実体験に基づいています。聖なる悪の美学。



■今日の余談─私の周りのダメ人間たち

└国内最大の野外イベント、フジロックフェスティバルに行った。
 客席などない。良い場所はとったもん勝ちという野外ライブ。
 最大のお目当てであるイギーポップを間近に見ようと意気込む
 我々一行は前々のバンドからジワジワと進み、最前列を確保。
 雨が降りしきる中、ずぶ濡れになってイギーを待つ。

 いよいよイギーポップ登場!
 ・・・の、瞬間からかなり真剣に身の危険を感じる。やばい・・。
 我々の後ろに控える何千人だか何万人だかがいっせいに我も前へと
 押してくるのだ。もう大変な騒ぎである。
 体は押され、足は地につかず、頭の中にはニュースの見出しが踊る。
 「フジロックの観客 イギーポップ公演中に圧死!」

 乗車率250%の満員電車で皆がいっせいに踊り狂ったような過酷な
 状況に加え、我も前へとダイブする阿呆どもが後を絶たないため、
 15秒おきに人が頭上を通り過ぎていく。
 まさに人間ベルトコンベアー・・・。正気の沙汰ではない。
 
 人々の頭上を揺られて流れて来た阿呆どもが排出されるのは、
 ステージと観客の間に設けられた通路である。ここには幾人かの
 外人セキュリティが待機しており、流れてくる人間を次々に
 抱え上げては降ろしていく。
 淡々と作業を行うその姿は積荷の上げ下ろしそのものである。

 とは言え、彼らセキュリティは最前列に位置する我々にとっての
 救世主である。彼らが「阿呆が流れてくるから頭を下げて待機しろ」
 との合図をくれるからこそ、踏み台になって蹴られたり、髪を
 つかまれたりという被害を最小限に抑えられるのだ。

 小心者の私なんぞは合図を見逃してはならぬと、イギーの顔よりも
 セキュリティの顔ばかり見ていた気がする。

 そして終焉。心身ともにぐったりしつつ、足元を見渡してみると
 携帯、財布、眼鏡・・・ありとあらゆる貴重品がそこかしこに
 散乱していた。


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